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2023/12/27

社内レポート

『一年経って想う事。』

『一年経って想う事。』

松戸市、市川市、宮大工が手掛ける注文住宅・古民家再生の工匠です。

扉のしまった工場の外は子供たちの声が響いている。夕方の子供たちっていつも楽しそうです。

機械の音もしないひろい工場の中では若い大工が一人、鉋掛けした木材の表面を撫でています。
美しく滑らかに湾曲した木。その仕上がりを確かめるように、静かに往復させる手。

出来が良くて満足しているでもなく、失敗して悔しいでもなく…
読み取りようのないような雰囲気。

「お疲れ様です。かんな掛け終わったんですか?」
「ん・・・。まあ、はい。でも、あと同じのを7本仕上げます。」
「そうなんですね。OKは誰が決めるんですか?親方ですか?」
「いえ。自分です。親方は何も言いません。」
「じゃあ、完成の判断て難しいですね。」
「はい。」
 

材料から手を放すことなく続けます。指先の集中は途切れない。
「できてはいるんですが、これじゃ、意味ないっていうか・・・。自分の道具では進まなかったんで、専務のを借りて仕上げたんです。」
「何か違いがあるんですか?」
「全然違います。」
「それは、道具の値段とかが違うってこと?」

「そういう事もあるのかもしれませんが、なんていうか、刃も台も全て違います。自分自身で道具を調整していくんです。鍛練ですよね。自分の道具はまだそれが全然足りていません。」
 

「専務の鉋は、材料の上に置いただけでわかるんです。自分のとは全然違うんです。」
「置いただけで?作業を始めなくてもわかるの?」

「わかります。置いただけで材料に吸い付くような感じです。力を入れなくても刃が進んでいくような感覚です。」
「そんなに違うんですね。」

「鉋の台も刃も、使って馴染むように調整していかないと。だから、自分の道具で最後までできなきゃいけないんですけど。進めないといけないし。仕上がりが良くないといけないので。今回は途中から専務の鉋をお借りしています。」

「なるほど。この表面すごく綺麗ですね。」
「はい。ピカピカになるんです。木肌に色々映り込むくらいになります。」

スーッと窓の光の方へかざした湾曲がきらりと光るのが私にもわかる。
艶出しのニスのようなものが薄く塗られているかのようです。

「前職も大工さんでしたよね?」
「はい。大工でした。でもこんなに木に触って、時間をかけて加工することがなかったので、やりがいは今の方がありますよ。扱う材料も前とは全く違います。今は、簡単に修正ができない本物の木ですから。」

「一年程経ってみて仕事はどうですか?できることが増えて面白くなるとか。」
働き出して一年くらいたつと、聞かなくてもできるようになることが増え、やってみたいことも見え始めて、なんだか楽しい時期なのではないかと思い質問しました。

「難しくなりました。緊張感が増しています。」

「どんなことが難しいですか?」
「粗削りをしていた最初の頃は楽しかったです。どんどん削って気持ちよかったです。今は、調整して丁寧にやらなければいけない仕事をしています。緊張感の連続です。でも、難しい仕事をさせてもらえるのは、ありがたいし嬉しいです。」


同じように湾曲させて削りだした材料を2本つなげるため、狂いがあってはピタリと収まらなくなるそうです。
何度も表面を確認して、直角を図りながらの作業が続きます。

足元に無数に落ちているカンナくずを拾ってみせてくれました。

静かな声で、
「これだとダメなんです。端がギザギザしてます。それは材料も同じようにギザギザに削られたことになるので。」
広げて見せてくれた薄い薄いカンナくず。

「これは、見せちゃだめですよ。」って笑ってたけど、
ごめんなさい(*^_^*)💦 

書かせてもらっちゃった。

こんな風に自分自身の腕を確かめながら作業し、考えて工夫して、一流になっていくのだと思いました。


だけど、落ちているカンナくずのほとんどはスーッと真っすぐにのびやかで美しい。

「やりたい事とか浮かんできますか?」
「やりたい事というか、今は、遠いな・・・って、感じるようになりました。」

「遠い?」


「・・・はい。遠い。」


とてもたどり着けるものではないかのような、遠い。

先輩たちを追いかけて、成長したはずの毎日は、その技の奥深さを実感し道具の違いを肌で感じて、自分のなりたい目標が見えなくなりそうなほどの、道のりの長さを思い知らされた一年だったという事でしょうか。

「遠い。」

それでも、おがくずだらけの作業着と、その笑顔は本当にまぶしい。

自分が目指す大工が想像以上に偉大だったとわかって、どこかうれしいのかもしれない。

読み取れなかったなんともいえないあの佇まいは、今の仕事を見つめながら、自分が立っている道の果てしなさと憧れる目標の素晴らしさを知っている職人の夕方の風景でした。

これから、もっともっとたくさんの経験を積んでもなお、目標までの遠さを感じるのでしょうか。実感もないままに技を身に付けていくのでしょうか。あと一年経ったら何を知り、何を想うのでしょう。


いずれにせよきっと、始まってからここまでの一年間は、自分でもまぶしく見えるときがくる宝ものみたいな日々になるのだと思います。


作業を止めて話していただき、ありがとうございます。

「遠い。」という言葉が本当に素敵でした。


 

時間を惜しまず技術を磨き、鍛練し続け、確かなものを手に入れようとする大工達の姿をこれからも発信できたらうれしいです。

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